涙が止まらない。


こんな衝撃を受けたのは久しぶりかも。


(横山秀夫の「半落ち」以来かな)



とくに謎解きとかミステリアスというわけではないんです。


ただ淡々と、犯罪者となってしまった兄剛志とその弟直貴の人生を描く。


だけどその毎日の生活の中に、どうしようもない苦悩が描かれている。


「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られた直貴の苦悩と葛藤、


彼の周りを取り囲む人々の心情、


そして刑務所から小気味よく届く剛志からの手紙。


その手紙が弟の苦悩をさらに増幅させる。


ときには物悲しく希望に溢れ、ときにはその能天気さが滑稽でもある。


そして外の世界から阻まれた兄の手紙は、


ときには無情に感じるときも。。。



ニュース等で残酷で凶悪な殺人事件などを目にすると、


事件に全く無関係な一般人である私たちにも、


加害者である犯人に対する「差別」が始まる。


なんて酷いことをするんだ、なぜあんなことをしたんだ、


私は違う。なるべくこういう人間には関わりたくない、


ああいう人間のクズは社会からいなくなればいい。


どんなに反省したって罪を償ったって、亡くした人が戻ってくることはない。


被害者の家族が、犯人を許さないのは当然のことだ、


私が被害者の立場だったら絶対許さない、と。


そして自分がその被害者にならなかったことにそっと胸を撫で下ろす。


そういう自分の狡さをまざまざと見せ付けられる衝撃があった。




一方でこうして他人事のように事件を眺めている私たちだって、


いつ犯罪者になるやもしれない可能性が潜んでいる。


剛志のように、誰かを守るためとか、何かを失いたくないと思う一心で、


犯罪者になることがあるかもしれない。


でもこの本を読んだら、どんなことがあっても犯罪者になってはいけない、


と犯行を思いとどまるきっかけになるかも。。。


暗いニュースが少しでも減ってくれたらいいですよね。




すこし話が逸れましたが、


この作品は、そんな「差別」を厳しい視点で捉えています。


犯罪者本人だけではなく、その家族に対する「差別」。


人間の心理や弱さを巧妙に描いていると思う。


直貴は誠実で、仕事も真面目に取り組み、頭も良い。


容姿も良く、人を惹きつけ感動させる歌声をもつ音楽の才能もある。


だけどその才能を、その本質を評価できる人はほとんどいなかった。


人間の本質を見極めることの難しさ、


周りを取り巻く環境や、地位、役職、学歴、


そういったものが人間を評価する上でいかに影響を与えているか、


ということも考えさせられました。




「何が正しいかなんて、正解はない。答えなんてない。


何をどう選択するのか、だ。大事なのはそれを自分で選ぶことだ。」




なんだか、すごーく心が熱くなる一冊。


どんどん惹き込まれてあっという間に読んでしまいました。